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小学校の新英語学習指導要領

10年に一度見直しが行われる「学習指導要領」。今回の改訂が施行される2020年には、今まで中学校で初めて紹介された文法などの内容を小学5・6年生で勉強するようになり「正式教科」として成績がつくようになります。今年度1・2・3年生が4・5・6年生になるころに施行されるということになります。

文部科学省:小学校における外国語教育の充実に向けた取組(カリキュラム、教材、指導体制の強化)を私自身ざっと読んでみたので、独断で選んだ重要ポイントをここにまとめます:

  • 現状の英語教育で、文部省が把握している一番の問題は、「読む」「書く」「話す」「聞く」のバランスが悪く、実際に外国語によるコミュニケーション能力のある日本人が育っていないこと
  • 一番大きな指導案改訂は、1)英語に対する抵抗をなくすため、ゲームやロールプレイを行う「外国語活動」を3・4年生から開始することと、2)5・6年生が文法を習い、単語や文を書く練習をすること
  • 5・6年生で学習する文法は、中学の内容の前倒しではない。最大の目的は、英語に親しむことを目標とした「外国語活動」と今まで中学の指導内容のレベルの差を縮め、学習の継承がスムーズに行えるようにすること
  • 中学校では英語の授業は基本的に英語ですすめられる

同じ文書に、カリキュラムや実験的に先行導入された学校で行われている授業の内容等が書かれてあるのですが、それを読んで上の目標が達成されることがどのくらい現実的かということも、考えてみました:

  • (ほかの教科に充てる時間を削ることの良し悪しは別問題としたとき、)成績のつかない、外国語活動を中学年から始めることは、英語や外国文化に対する興味を育むためには良いと思う
  • 15分程度のモジュール授業を週に複数回行うことが提案されている。言語学習はスポーツのように練習することが効果的という点で、うまく15分を使うことができれば効果的かもしれないが、効果的な授業案を計画することを小学校の担任任せにするのは無理があると思われる。学習内容やカリキュラムは徹底的に中枢管理し、専門家が組んだ内容を計画的に施行しなければ意味がない
  • 今年の3月に実施された調査によると、75.2%の教師が外国語授業の実践に「自信がない」と回答。文部省が施行前にこの数値をどれだけ改善することができるかが、気になるところ
  • コミュニケーション能力が問題となっているが、どうして話せないのかが具体的に議論されていないのが不安。「英語で話したいと思う相手がいること」が、話せるようになる一番の近道であり、とくに子供にとっては身近なきっかけ。それが無ければテスト勉強で終わってしまい、一向に解決しない問題であると思う。英語でしかコミュニケーションを取れない相手(外国人)と接する機会をなるべく多く提供し、外国人が主体となってする授業が頻繁にあることが一番本当に生徒のためになる施策のひとつであると思うが、それがどの程度実現するのかが見どころだと思う。また、クラスを指導する力のある外国人人材をどこまで育てることができるかも課題だと思われる
  • ネイティブの発音に触れさせることため、デジタル教材の導入で日本人教師の弱点を補おうとしているような計画がみられるが、そもそもデジタル教材自体が子供にとってゲームのように面白いものでなければ、子供の集中力を保持し、効果を発揮させることは難しいと考える
  • 中学で英語の授業が英語で行われるようになってからは、「外部の教育を受けてどんどん英語ができるようになる子や、もともと素質があって伸びる子」と「英語が嫌いな子・できない子」の格差が広がっていくことが心配です
  • でも実は、個人的には中学校で英語の先生が実際に英語で授業する姿は想像できないんです・・・。小学校で2年間多く、英語が専門外の、しかも指導に自信がないと答えている日本人の先生に英語を習ったところで、そこまでのレベルに達するの?という疑問の気持ちが今は勝っています
  • 外国語を話せることは、楽しくて、素敵なことです。この改訂が子供たちにとって良いものであることを願っています

おまけ:人材確保の問題

ALT(アシスタントランゲージティーチャー)の質の確保の問題はとても気になる点です。今回の改訂の成功の鍵にもなる重要な要素だと思うからです。行政区域によっては、コスト削減のために、競争入札で雇われた派遣会社に委託している市区町村もあります。一概には言えないですし、程度の差もありますが、派遣会社はもちろん営利団体ですから、コストを下げるために、なるべく安く先生を調達しようとします。教師の品質管理の責任は派遣会社の責任ですので、教育のスキルはもとより、英語自体をどの程度理解している外国人ALTに当たるのかということすら、不確定の要素となってしまう可能性があると思うのです。私は特に子供の将来を左右する教育に携わる人材に関して、責任の所在を曖昧にするALTの派遣会社の利用、ましては競争入札には反対です。

国という大規模で、これだけ大きな改訂をする際に、教育人材の品質確保をする術はないのでしょうか?私一人でどうにかなることではないにしても、考えてしまいます。


参考:
NIKKEI STYLE:イチからわかる『小学校の英語 どう変わる?』

文部科学省:『今後の英語教育の改善・充実方策について 報告~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~』

文部科学省:小学校における外国語教育の充実に向けた取組(カリキュラム、教材、指導体制の強化)

教育ニュース:新学習指導要領の“英語”、保護者は「懸念」教師「自信ない」

YouTubeビデオ:習志野市の教育 ~英語編~ (なるほど習志野:H28年11月号)